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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1113号 判決 1961年12月21日

青和銀行

事実

控訴人(一審原告、敗訴)株式会社青和銀行は、一審における請求原因として、控訴人は被控訴人伊藤貞次郎が訴外昭和内外物産株式会社に宛て振り出した金額二十五万二千円の約束手形につき、右訴外会社より取立委任裏書を受けて、更に訴外東海銀行東京支店に取立委任をなし、同銀行の手により右手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めて拒絶されたので、控訴人は右手形を同銀行より返還を受け、取立受任者として現に右手形を所持するものである。よつて被控訴人に対し右手形金とこれに対する完済までの利息の支払を求める、と述べたが、控訴審においては右自白を撤回し、控訴人は昭和内外物産株式会社に対し約六千万円の債権を有しており、本件手形も右債権の一部の弁済のため右会社から控訴人に裏書譲渡されたものである。ところが右裏書譲渡は白地式でなされたものであつたため、控訴人において、控訴人から東海銀行に右手形の取立委任裏書をする際、その裏書欄に押印したと同様の「取立委任候ニ付株式会社○○銀行」なるゴム印を控訴人への裏書欄の白地の部分にまで誤まつて押してしまい、右の空白部分に別のゴム印で「青和」の印を押したため、手形面上は、恰かも控訴人が昭和内外物産から単に本件手形の取立委任を受けたにすぎない形式になつてしまつた。しかし、事実は前記のとおり取立委任裏書を受けたものではなく、白地の単なる譲渡裏書を受けたものであり、その裏書欄の「取立委任」の字句はその裏書人でない控訴人の係員が誤まつてこれを押印記入したにすぎない。事実は右のとおりであるのに、控訴人は一審で前記のとおりの主張をしたが、これは真実に反し且つ錯誤に出たものであるから、ここにこれを取り消し、本件手形は控訴人において昭和内外物産株式会社より単純な裏書譲渡を受けたものであると主張する。そうして、事情右のとおりである以上、仮りに被控訴人がその主張のような昭和内外物産に対する反対債権を有し、これと本件手形金債務とを合意相殺した事実があつたとしても、右事実は手形の善意取得者である控訴人に対抗することができない、と主張した。

被控訴人伊藤貞次郎は抗弁として、被控訴人はその所有するアパートの二室を昭和二十八年三月一日から昭和内外物産株式会社に賃料一カ月一万円と定めて貸渡したが、昭和三十一年七月十日頃被控訴人と当時の右会社代表取締役との間で、右アパート二室の昭和二十八年三月一日以降昭和三十一年七月末日までの約定賃料合計四十一万円の債権と、昭和内外物産株式会社の本件手形債権とを対当額について合意相殺をしたので、本件手形債務は消滅に帰している、と述べ、昭和内外物産株式会社より控訴人への本件手形の裏書が、控訴人主張のような通常の譲渡裏書であることは争う、と主張した。

理由

一、先ず、控訴人の自白の撤回が許されるかどうかについて判断する。

証拠を総合すれば、昭和内外物産株式会社から控訴人に対する本件手形裏書の事情及び右の裏書欄に「取立委任」なる記入がせられるに至つた事情についての控訴人主張事実は全部これを認めるに足るところである。そして右事実に弁論の全趣旨を総合すれば、事実関係が右のとおりであるに拘らず、本件訴訟の原審において控訴人が右裏書をもつて取立委任裏書であると主張したのは、控訴代理人弁護士が前記の事情を知らず、手形面上に取立委任なる記入があつたところからこれを誤解し、錯誤によつてその主張をしたものであることが認められる。事情右のとおりであるから、控訴人が昭和内外物産より控訴人への本件手形の裏書は取立委任によるものであるとした控訴人の自白は真実に反し、且つ錯誤に出たものとして、その撤回はこれを許すべきものである。

二、右裏書が取立委任裏書か否かを除く控訴人の主張事実(手形の振出、呈示、支払拒絶等)はすべて被控訴人の認めるところであり、右手形の控訴人への裏書が取立委任裏書ではなく通常の譲渡のための白地裏書であることは右認定のとおりである。そうとすれば、昭和内外物産株式会社より控訴人への裏書が通常の白地裏書である以上、控訴人が後に右裏書欄に「取立委任のため」という字句を記入しても、これによつて右裏書が取立委任裏書に変るわけはないから、右裏書は依然として昭和内外物産より控訴人への通常裏書であるというべきである。

三、(省略)

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